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           JAPANハECONOMICハREPORT

               08.01.16

 

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日本経済最前線の視点から、理論ではなかなか学べない日本経済の現状や見通し

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■改革とマネー

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昨年12月、米財務省は連邦法人税改革についての報告"ApproachesハtoハImprove

theハCompetitivenessハofハtheハU.S.ハBusinessハTaxハSystemハforハtheハ21stハCentury"

を公表した。改革案の主要なポイントは、以下の通りである。

 

1)BusinessハActivityハTax(事業活動税)の導入

2)法人所得税率の引き下げ

3)国際取引に対する二重課税回避の為の税制見直し

 

普段はあまりニュースになる話でもないが、米国の法人税制は取引や投資のグロ

ーバル化への対応、特に各国の税率に引き下げ競争の流れに完全に取り残されて

いる状況であり、事実、法人所得税率がOECD諸国の中では2番目の高さとなっ

ていることがそれを顕著に表している。米財務省の中においても、これが米国企

業の国際競争力を劣化させているとの懸念が認識されており、上記改革案取り纏

めの背景もかかる懸念が根底にある。

しかし、法人税率引き下げるには財源の確保が必要である。そこで、この手段と

して欧州諸国のVAT(付加価値税)と同様の性質を有するBusinessハActivityハTax

(BAT)の導入が有効との考えが報告書の中で示されている。米財務省の試算は、

税率5〜6%程度のBATを導入することにより、法人税率は現行の35%から31%

まで引き下げることが可能であり、また、BATを導入し法人税率を引き下げるこ

とは設備投資促進にもつながり(※1)、GDPを2〜2.5%押し上げるというもの

である。

 

また、上記法人税率引き下げとBATの導入に加え述べられているのが、国際取引

に対する二重課税回避に関わる税制改革である。二重課税というのは、例えばあ

る一つの取引を海外で行った際に、取引を行う海外と本店の所在する国の二つの

国から課税されるというものであるが、多くの国では自国企業の競争優位性を確

保するために税制上の救済措置(外国税額控除制度等)を設けていたり、或いは、

二国間での租税条約締結により、二重課税が企業の取引になされないようにして

いる。

 

現在米国では「全世界主義(米国法人の国内帰属所得だけでなく国外帰属所得に

ついても米国にて課税する方式)+外国税額控除制度」(日本も同様の方式)を

採用しているが、当該制度においては二重課税の軽減は可能であっても、完全な

排除は難しい場合がある。これに対して、殆どのEU諸国は「属地主義(国内帰属

所得のみ国内で課税する方式で、理論上二重課税そのものが発生しない)」を採

用しており、この点も検討べき事項の一つとして取り上げられている。

 

さて、上記に長々と記述した米国税制改革案の内容詳細については、筆者が読者

に対して伝えたい本質的なポイントではない。重要なことは、(1)既に欧州諸

国は、EUという強大な経済共同体のもとで、次々とグローバル化への対応を進め

てきているということ(規制、税制、会計、労働、金融等々)、(2)実際に昨

今のユーロ高やポンド高に象徴されるように、世界のマネーは米国や日本からユ

ーロ圏へと流れている、そして、(3)米国はそのEU経済圏の勢いに圧倒されて

いるとともに、それに対して強い危機意識を抱いてきているということである。

税制面で言えば、上記米財務省の報告書の中においても、EU型を志向すべきでな

はいかという考え方が強く見られる。

 

税制に限らず、会計制度においても同様のEU志向型の傾向が見て取れる。米国人

が世界で最も洗練された最先端の会計基準であると疑わなかった米国会計基準は

国際会計基準と歩調を合わせざるを得ないのが実情である。昨年、米国証券取引

委員会(SEC)は、米国外企業が米国にて上場する場合に、国際会計基準ベース

で作成した財務諸表をそのまま用いること(つまり米国会計基準ベースの財務諸

表への組み替えを求めないこと)を認めた。現在ではさらに話が進んでおり、将

来的には、米国上場企業に対しても国際会計基準での財務諸表作成を求めるとい

う方向性が示されている。要すれば、そう遠くない将来において、米国会計基準

は国際標準の看板を下し、単なるローカル会計基準となるのである。

 

以上、米国の状況について記述したが、翻って日本はどうであろうか。上記税制

の話の中で、米国の法人税率はOECD諸国の中で二番目に高い状況と説明したが、

OECD諸国の中で最も高い法人税率の高い国こそが日本なのである。企業がグロ

ーバルに取引を行おうとするには、法人税制或いは投資税制の面では正直全く魅

力のない国である。会計基準面でも日本の会計基準はローカル会計基準の域を出

ていない。そもそも海外企業が日本で上場をしようとすれば、わざわざ日本語で

の財務諸表も作成せねばならないのであるから、そのようなインセンティブは到

底湧かない。資金の流れが滞れば、経済・産業はなかなか活性しない。が、日本

においては、米国が最近感じ取ってきているような危機意識が薄いというのが実

情であろう。今回はたまたま税制や会計の話に焦点を充ててみたが、もちろん論

点をこれらのみに絞る必要はない。規制改革、労働市場改革、環境政策等、グロ

ーバリゼーションの流れに的確に対応可能なスピード感ある改革を進め、マネー

が潤滑に日本列島を経由するような手立てをもっと危機感を持って講じていくこ

とが必要であろう。                        【編】

 

(※1)設備の先行投資を伴う事業活動を行う企業にとっては、BATは設備購入

時点でBATのCreditを創出し、その後収入が生じた際に当該Creditと相殺するこ

とができる(つまり税金支払のタイミングが繰り延べられる)。一方、従来の法

人税制のもとでは、設備購入時点で企業は損金算入することができず、税務上定

められた所定の年数に亘る減価償却という形で損金認識が可能となる。従い、

BAT制度は法人税制と比べて設備投資を主体とする企業にとっては税金の繰延効

果をもたらすこととなる。

 

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