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            JAPAN ECONOMIC REPORT
               09.03.29(通巻602号)

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ワールドベースボールクラッシック(WBC)の興奮がなかなか冷めやまぬ読者
の方々も多かったことと思います。私も、たまたまロサンゼルスに住んでいる地
の利を活かし、準決勝「日本対アメリカ」戦、並びに、その翌日の決勝戦「日本
対韓国」戦をドジャーズ球場にて観戦してきました。

アメリカでのWBCの位置付けは低く、この時期の国民のスポーツ関心は断然に
NBAに向いております。このため、彼らにとってのWBCは国の「威信をかけ
て」というものではなく、飽くまでも一種のショーに過ぎません。とはいっても、
野球の国際的な勢力図が明らかに変わっていることを否応無く認識させられたア
メリカ人も多かったことでしょう。アメリカのメジャーリーグは、閉ざされた世
界に安住し過ぎ、アメリカ人の本来の気質である「挑戦する」意欲が失われてし
まっているような気もします。

決勝戦は本当に見応えがありましたね。今回の日本チームの最大の功績は、子供
達に夢を与えたこと、目標に向かって挑戦し、それを達成できた時の感動を示し
てくれたことでしょう。我が家の子供達も、早速その翌日に「(春休みの)ベー
スボールキャンプに参加したい」と言い出し、カードに何を書き出したかと思え
ば「(将来の夢として)プロ野球選手になりたい」と。見事に感化されました。
日本選手の一所懸命さも子供なりに心に響いたのではないでしょうかね。【編】

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■格差社会
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前回号に述べた通り、欧米諸国を中心に逆資産効果による消費減退という呪縛か
ら抜け出すことに苦戦しており、各国金融当局は加速的に金融緩和(量的緩和)
策を進め、また、各国政府は大規模な経済対策を発動させている。これらの効果
が全く効かないということは有り得ず、相応の需要喚起効果をもたらすことであ
ろう。日本の定額給付金も、「これが経済対策?」と疑問符を持つ者が大勢だっ
たろうが、さはさりなん、現金給付は消費に直結し易い。今後2〜3ヶ月後に発
表される経済指標には間違いなくプラスの影響をもたらし、思わぬサプライズと
して市場が(株高・債券安という方向に)反応する可能性が高い。

もっとも、ここで注意せねばならないのは効果の「持続性」であり、その反動減
が間もなくやってくること、また、効果が切れた時に再びネガティブ材料が浮か
び上がってくることである。市場は前月比での経済指標の改善を見て、景気が底
を打ったと考えがちであるが、前年比ベースでの経済指標改善の兆しを見るまで
は本格回復とは言えないであろう。短期的な市場の動向よりも長い時間軸で情勢
を見極めることが重要である。

          ・      ・      ・

さて、アメリカ経済の失速により、資本主義経済の問題点が様々に論評されるこ
とが多くなった。この論評が日本経済に対しても飛び火し、かつては明らかにポ
ジティブなキーワードであった「規制緩和」「構造改革」は今や風前の灯火状態
となり、寧ろこれが「格差社会」を助長したというようなネガティブなコメント
も多く聞かれるようになり、「格差是正」というのが経済不況下における主要テ
ーマとなった。世論は移り気であり、時に偏り過ぎることも多い。特に、人間は
本能的に自分を守ろうとする為に、当人が相手に対して信頼を持てなくなった時
に、その判断基準が大きく揺らぐ。日本においては政府への国民からの信頼が失
墜していることがまさにその状態である。

「格差社会」といえば、先日「超・格差社会アメリカの真実」の著者である小林
由美さんの講演に出席する機会があった。ここ数年のアメリカにおける「格差社
会」の進行は、日本のそれとはとても比べものにならず、アメリカにて議論され
る「格差社会」問題の論評を日本社会にそのまま当てはめようとするのは少々大
雑把すぎるだろう。

同著書にあるデータは少々古いかもしれないが、そこに引用されているニューヨ
ークタイムズの調査によるとアメリカの1億4500万人の納税者の全所得の内、
その0.1%の納税者(=所得が1.6億円を超す納税者)が、納税者全所得の
11%を占め、残り89%の所得を99.9%の納税者たちで分け合っていると
いう。これは「所得」というフローに着目したものであるが、「資産」というス
トックの面から見ると、格差の分布はさらに拡大する。例えば、米国世帯の純資
産分布を見ると、上位5%の超富裕層に59%、上位20%の富裕層に84%の
富が集中しているというのだ(このデータも2001年時点のもので、少々古く、
直近ではブッシュ政権時に政策の影響等により、この格差がさらに拡大している
可能性が高い)。これは驚愕的な格差であり、3億人もの人口がいる中で、その
富の大半は限られた特権階級層に集まっている。また、この状態が維持されるよ
うに一握りの特権階級層によって社会の制度・仕組みが設計されているのである。
例えば、共和党ブッシュ政権時代の減税策もその代表例と言え、これに対して民
主党側は「国民99%の犠牲でトップ1%だけに恩恵を与える税制改悪」などと
言って揶揄している。これに対して、日本における「格差」は、「職業選択と労
働報酬」という点に焦点が充てられており、この拡大への懸念があるのは事実で
あるが、アメリカにおける「格差」を一つの物差しとすると、日本における「格
差」はかなり規模の小さな話となってしまう。

共和党とは対照的に民主党オバマ大統領は大統領選挙中の公約として「中産階級
の救済と強化」を掲げ、中産階級の国民に対しては減税を実施するとしている。
しかし、ここでも「中産階級減税」の対象としては「年収20万ドル以下の世帯」
である。単純に1ドル100円で換算すると、世帯年収が2千万未満であれば、
「中産階級」に属するということだ。日本人的な感覚だと年収2千万近く稼いで
いれば、かなり裕福な世帯と分類されるが、米国においては上記の通り桁違いの
資産や所得を有する富裕層が存在することにより、その線引きの基準点が日本と
は全く異なるものとなっているのである。

また、これに関連する話として、アメリカでは政府から救済を受ける金融機関の
経営陣が多額のボーナスを受け取っていることが最近話題となった(このボーナ
スの額も日本人の感覚としては桁違いの話なので、日本でも報道されたかもしれ
ない)。たしかに、誰が見ても危機的な金融情勢下にあって、あたかも何事もな
かったかのように莫大な賞与が支払われたとなれば、国民の怒りを買うのは当然
であろう(しかし、経営陣が心情的に仮にそう思っていたとしても、契約上定め
られた自分の持つ権利を主張するのがアメリカ人でもある)。

このような事実に対して、オバマ大統領は「ここはアメリカである。私たちは人
の富を羨まない。成功した人を恨まない。また、成功に対しては報酬があるべき
だと信じる。しかし、失敗に対して企業役員が報酬を受ければ憤慨する」と以前
コメントしていた。なかなかアメリカらしくもあり、納得感のあるコメントであ
る。この前段の人々の「成功」を後押しする気風は、「格差社会」の助長と紙一
重であるが、アメリカ社会の素晴らしい面でもあろう。こういうコメントを聞く
と、成功できる確信があまり無くとも「頑張ってみるかな」ぐらいの気にはなる。
こういう中にいるせいだろうか、アメリカ社会と比べると「格差」の程度が明ら
かに小さい日本において小泉政権時の「規制緩和」「構造改革」が「格差」を助
長したと問題視する声が増えていることに違和感を覚える。

アメリカにおける資本分布の格差問題を解消することは一筋縄ではいかないだろ
うが、日本に生じている格差問題は「労働報酬」の問題にほぼ集約され、教育制
度や職業訓練の仕組み、職種や勤務先を変え易い雇用慣行を後押しする為の法体
系、育児との両立を行ない易い環境の整備等々、具体的な対策が比較的立て易い
性質のものと言える(政局の混乱により、対応が後手後手となっているのが実状
かもしれないが)。

誰にでも努力と挑戦により、飛躍できるチャンスを与えらるべきである。「規制
緩和」や「構造改革」は、不断の努力と果敢な挑戦を行うものに大きなチャンス
を与え、経済に活力をもたらすこともある。社会システムの安定化とのバランス
には配慮をせねばならないが、変化の無い世界に安住することもリスクとなり得
ることを忘れてはなるまい。                    【編】

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